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東京地方裁判所 平成5年(ヲ)2086号 決定

主文

一  相手方株式会社丙川は、本決定送達後五日以内に別紙物件目録三記載の建物(以下「本件建物」という。)から退去せよ。

相手方株式会社丙川は、株式会社丁川以外の者に、本件建物の占有を移転しまたは占有名義を変更してはならない。

二  相手方戊田株式会社、相手方株式会社丙川及び相手方乙野株式会社は、本決定送達後五日以内に、別紙物件目録二記載の土地上に設置した物置(以下「本件物置」という。)を撤去せよ。

三  相手方株式会社丙川が本件建物から退去するまでの間、執行官は、相手方株式会社丙川に対して主文第一項記載の命令が発令されていることを公示しなければならない。

四  相手方戊田株式会社、相手方株式会社丙川及び相手方乙野株式会社が本件物置を撤去するまでの間、執行官は、同相手方らに対して主文第二項記載の命令が発令されていることを公示しなければならない。

理由

一  本件は、売却のための保全処分として主文記載の決定を求めるものである。

二(1) 所有者株式会社丁川に対する保全処分の発令記録によれば、以下の事実が疎明される。

(ア)  申立人は、株式会社丁川(基本事件の債務者兼所有者、以下「丁川」という。)に対し、平成元年一二月一九日、金一一億五〇〇〇万円を貸し付け、その際、別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)につき極度額一二億五〇〇〇万円の根抵当権の設定を受けた。申立人は、丁川に対し、平成二年一一月三〇日に、更に金七〇〇〇万円を貸し付けた。

(イ)  丁川は、不動産の賃貸、売買等を業とする会社であるが、経営状態が悪化し、平成三年六月以降利息を支払わず、平成四年四月一三日第一回目、同月二〇日第二回目の手形不渡りが発生し、銀行取引停止処分を受け事実上倒産した。かかる状況において、本件不動産について、平成四年四月三日受付で、相手方戊田株式会社(以下「相手方戊田」という。)を権利者とする賃借権設定仮登記が、同月一四日受付で同社を権利者とする極度額五億円の根抵当権設定仮登記がなされた。本件不動産の状況は、平成四年四月一六日までは全く変化がなかつたが、同月一七日、本件土地上にコンクリートを流し込む工事が行われ、同月二三日ころからは、本件建物に内装工事が行われ、入り口ガラス戸には、相手方株式会社丙川(以下「相手方丙川」という。)の看板が掲げられるなどして、第三者が入居する直前の状況にあつた。そこで、申立人は、丁川を相手方として、工事禁止、占有移転禁止等の保全処分を申立て、当裁判所は、平成四年四月三〇日、これを認容する決定をした。申立人は、これに先立つ平成四年四月二七日本件不動産につき競売の申立をし、同月二八日競売開始決定が、同月三〇日差押登記がなされた。

(2) 相手方丙川が執行妨害目的で本件建物を占有していることについて

(ア)  相手方丙川の占有時期、占有・営業状況記録によれば、以下の事実が疎明される。

相手方丙川は、丁川が銀行取引停止処分を受けた平成四年四月二〇日の後である同月二三日ころから、本件建物につき内装工事などをしたうえ、本件差押直前に本件建物を占有するに至つた。平成四年五月二二日、現況調査担当執行官が、本件建物に臨場し、相手方丙川の事務員に営業内容について質問したところ、曖昧かつ投げやりな態度で、返答した。また、相手方丙川の社員は、後記の執行妨害目的で設置された簡易物置を使用しているのは、相手方丙川であると執行官に対し陳述した。また、申立人代理人等の営業内容等についての問い合わせに対しても、不自然な応対をしている。

(イ)  相手方丙川の本件建物の占有権原

記録によれば、以下の事実が疎明される。

相手方丙川は、本件建物の占有権原として、相手方戊田からの転借権を主張し、その旨の賃貸借契約書を執行官に提出した。しかし、相手方戊田の賃借権は、丁川が第一回目の手形不渡りを出す一〇日前に設定登記されたものであり、その内容は借賃月一〇万円、三年分全額前払い済み、譲渡・転貸ができるというものであり、また、自己は全く使用せず、直ちに相手方丙川に転貸しているなど、いわゆる濫用的短期賃借権の特徴を有するものである。

(ウ)  相手方戊田、相手方丙川、相手方乙野の役員構成など

記録によれば、以下の事実が疎明される。

相手方丙川及び相手方株式会社乙野(以下「相手方乙野」という。)の前代表者は戊原冬夫であり、同人が代表者であつた株式会社戊原硝子(以下「戊原硝子」という。)の関連会社である。戊原硝子は、倒産し、現在その所有不動産が競売に付されている。相手方戊田の代表者である甲田夏夫は、暴力団と関係を有する者である。甲田夏夫は戊原硝子倒産後、その総務部長となり、戊原冬夫と共謀のうえ、戊原硝子所有の競売不動産につき、執行妨害行為をしているとして、戊原硝子及び甲田夏夫が相手方とされて、競売建物からの退去等の保全処分が発令されている。なお、甲田夏夫は、戊原硝子所有の競売不動産につき、濫用的短期賃借権の仮登記を経由している。

相手方丙川及び相手方乙野等の役員構成は、現在、別紙役員関係一覧表のとおりである。すなわち、従前の代表者は、戊原冬夫であつたが、戊原硝子の財産状態が悪化した後である平成三年一二月に、甲田夏夫、丁原春夫、丙山秋夫、甲川松夫が役員となつた。丙山秋夫及び丁原春夫は、戊原硝子の役員にもなつている。

以上認定の事実によれば、甲田夏夫、丙山秋夫、丁原春夫らは、戊原硝子が倒産した後、同社及びその関連会社である相手方丁川及び相手方乙野に役員として乗り込み、同相手方会社を執行妨害行為に利用しているものと認められる。

(エ)  以上認定の事実を総合すれば、本件建物は、現在、相手方丙川が占有しているが、これは、暴力団と関係を有し、別事件においても執行妨害行為をしている甲田夏夫が中心となつて、同人と関係を有する丁原春夫、丙山秋夫らが相手方丙川の役員となつたうえ、差押がなされる直前に、執行妨害目的で、内装工事をする等したうえ、これを占有したものと認められる。

(3) 相手方戊田、相手方丙川または相手方乙野が、執行妨害目的で、本件物置を設置したことについて

記録によれば、本件差押後である平成四年五月二五日ころ、別紙物件目録二記載の土地上に簡易物置が設置されたこと、相手方乙野が、相手方戊田から、本件物置を賃借りした旨の賃貸借契約書が現況調査担当執行官に提出されたこと、同契約書によれば、相手方乙野は、本件物置を賃料月一〇万円で借りたと記載されているが、平成四年九月二一日に至るも全く使用していないこと、相手方戊田の本件土地についての賃借権は濫用的な短期賃借権であること、相手方丙川の事務員は執行官に対し、当初、本件物置は相手方丙川が使用している旨述べたが、その後相手方乙野が事務所に使用する目的で設置した旨述べたこと、平成四年七月二日、現況調査担当執行官が本件土地に臨場したところ、同年五月にはなかつた相手方乙野の看板が本件物置に掲げられていたことが疎明される。

同事実に前記認定の、相手方乙野は、戊原冬夫の経営する戊原硝子の関連会社であつたが、戊原硝子倒産後、暴力団に関係があり、別事件で執行妨害行為をしている甲田夏夫及び同人と関係のある丙山秋夫、丁原春夫、甲川松夫がその役員となつていること、相手方丙川も戊原冬夫の経営する会社であつたが、現在前記丁原、丙山らが役員となつていること、を総合すれば、本件物置は、相手方戊田、相手方丙川または相手方乙野のいずれかが、執行妨害目的で、本件土地上に設置し、所有しているものと認められる。すなわち、本件建物を執行妨害目的で、相手方丙川に占有させた甲田夏夫らは、更に、本件土地上についての執行を妨害するため、同相手方らをして本件土地に本件物置を設置したものと認められる。

(4) 以上のように、執行妨害目的で、本件不動産を占有する者がいるときは、これにつき入札を希望する者は激減するから、本件不動産の価格は著しく減少するということができる。

三  以上によれば、本件申立は理由があるから、これを認容し、申立人に相手方丙川に対し金一〇〇万円、相手方戊田に対し金一〇万円、相手方乙野に対し金一〇万円の担保を立てさせたうえ、主文のとおり決定する。

(裁判官 松丸伸一郎)

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